医学統計入門① 医学における統計の役割
そもそもなぜ医学で統計が必要なのか?
実臨床でよくある場面…
〇〇病(胃腸炎など)で入院されている患者Aさんがいました.ある新薬Nが今までの薬Cよりどれくらい効果があるのか知りたい場合,理想論だけで言えば…
というように直接比較することができたら嬉しいですよね!
しかし,完璧にシミュレーションができる状況でない限り,直接比較することはできません(現実では個人単位で直接比較は不可能.)
そこで個人単位での比較は諦めて,代わりに似たような集団をつくって,グループで比較検討することにします
集団の平均効果や差などを比較検討するときに統計知識が必要になってきます!
- 余談ですが,仮に人間の細胞単位で完全にシミュレーションできるほど医学が発展したら,個人単位での比較は可能になり,統計が不必要になる日がくるかもしれないですね!
統計解析の目的
統計解析の目的は
「標本の情報を使って関連する母集団について推論すること」です!
これだけだと意味不明だと思うので図で補足しますと…
- 母集団:研究のクエッション(Q)に対応するヒト全ての集まり
- 標本:母集団から無作為に抽出したデータ
母集団は,一般性を備えており,研究対象を満たす全世界の過去・現在・未来すべてを包括した集団を指します
ほとんどの研究の場合,手元のデータ(標本)だけでは,一般化することはできないので,
手元のデータを基に母集団について推論することになります
これを統計的推測と呼び,その際に仮説検定や推定を考えることになります
例外として,
たとえば「今年の佐渡島の島民の平均年齢」などを知りたい場合,
全島民のデータの年齢の平均がそのまま知りたい内容と一致するので,データの要約をそのまま記述すれば研究のQが達成されます
このような統計の活用のされ方は記述統計と呼ばれます
- 「データの要約=研究のQになるもの」は記述統計
ただ,ほとんどの研究では,統計的推測が必要になるので,
結局のところ
- 統計解析の目的は「標本(手元のデータ)の情報を使って関連する母集団(全世界)について推論すること」になります
具体例
タミフルを飲んだインフルエンザ患者100人のデータ(標本)があるとします
手元のデータをまとめるのではなく,背後の全世界の人たち(=母集団)に対する効果を推し量るのが医学統計の本質です
このとき,手元の100人のデータ(標本)が背後の母集団から無作為に抽出され,母集団の特性を代表できるものであるか,を吟味することは大切です
観察研究では,無作為に抽出されたと考えるのが難しいことが多く,
多変量解析などで調整したりすることが必要になることがあります
ただ,ここでは無作為抽出や代表性が保たれていると仮定して進めていくと,
手元のデータの情報を基に
- タミフルの効果の有無を検討する場合は,仮説検定
- タミフル投与により〇〇%の改善があるのかを知りたい時は,推定
をしていくことになります
まとめ
- 個人単位での比較は限界があるので,統計を使って集団で検討をする
- 手元データ(標本)の特徴ではなく,背後の母集団についての推論をする
- 推論の際に,検定・推定などを用いる
手元のデータそのものには興味がない,ということをあまり意識したことがなかった人も多かったかもしれませんね!
次からは検定や推定を掘り下げていきましょう〜